画家・アーティストのマーケティング戦略|ステップ 5 : オフラインへの導線設計
ステップ1〜4では、
- 認知
- 興味・共感
- 信頼
- 最初の購入
までの導線を作ってきました。
ステップ5では、そのオンライン上の関係を、「実際に作品を見る」というオフラインの体験へ移行させます。
つまり、SNSで見ていた作品を、実際の空間で見てもらうことが目的です。
アートの場合、画面だけでは
- 実際のサイズ
- 素材の質感
- 絵具の厚み
- 筆のタッチ
- 紙やキャンバスの質感
- 光による見え方
- 空間との関係
- 作品の存在感
などを完全には伝えられません。
そのため、
- オンライン
- → 興味を作る場所
- オフライン
- → 作品を身体的に体験する場所
と役割を分けて考えます。
オンラインとオフラインを連動させる
よくあるのが、「展示会をするからSNSで告知する」だけで終わってしまうケースです。
これでは、せっかくのオンラインでの活動を十分に活かせません。
重要なのは、オンラインとオフラインを一つの顧客体験として設計することです。
例えば、
- SNS
- 作品を知る
- 制作背景を見る
- シリーズを知る
- 実物を見てみたくなる
- 展示情報を見る
- 来場予約
- 展示会へ行く
- 実物を見る
- 作家と話す
- 作品を購入する
という一本の流れを作ります。
つまり、SNSは展示会の広告ではありません。
展示会に行く理由を作る場所です。
「展示会の告知」だけでは弱い
例えば、
「○月○日から個展を開催します。ぜひお越しください。」
と告知するだけでは、来場する動機としては弱くなります。
なぜなら、ユーザーにとって「なぜわざわざ会場まで行く必要があるのか?」が明確ではないからです。
そこで、オンライン上で、
- 作品を見る
- 世界観を知る
- 制作背景を知る
- 新シリーズへの興味を持つ
- 「実物を見たい」という欲求を作る
- 展示会を案内する
という順番を作ります。
重要なのは、展示会を告知することではなく、展示会に行く理由を事前に作ることです。
展示会を「オンラインコンテンツ」にする
個展は、開催期間だけのイベントではありません。
その前後も含めて、一つのコンテンツとして設計できます。具体的には、以下のような内容を「展示前」「展示期間中」「展示後」のそれぞれで発信していきます。
- 展示前
-
- 新シリーズ発表
- 制作風景
- 新作の一部
- コンセプト紹介
- 制作中の失敗
- 額装
- 搬入準備
- 会場の一部
- 展示タイトルの意味
- 展示期間中
-
- 会場風景
- 作品のディテール
- 来場者の反応
- 作家在廊
- トークイベント
- 会場での制作
- 作品についての解説
- 展示後
-
- 展示記録
- 作品写真
- 制作意図
- 来場者へのお礼
- 購入者へのお礼
- 次の制作への展開
こうすることで、一つの個展が数週間〜数か月分のオンラインコンテンツになります。
「全部見せない」ことも重要
オンラインで作品をすべて公開すると、展示会に行く動機を削いでしまう可能性があります。
だからといって、作品を隠せばよいという話でもありません。
重要なのは、オンラインでは「興味」を作り、会場では「体験」を完成させることです。
例えばSNSでは、
- 一部分だけ見せる
- 制作途中を見せる
- ディテールを見せる
- コンセプトを紹介する
- シリーズ全体を見せる
といった発信を行います。
その一方で、作品を完全な形では公開しないという設計にします。
「オンラインでは伝えきれないものを、会場に残しておく」という基準で、オンラインでは何を見せ、何を見せないかを検討するとよいでしょう。
「実物を見る理由」を作る
来場する理由は、単純に「作品を見る」だけではありません。
例えば以下のように伝えることで、会場へ足を運びたくなる理由を作り出すことができます。
- サイズ
- 「実際には1mを超える作品です」と伝えることで、オンラインでは分からないスケールを体験したくなります。
- 質感
- 「絵具を何層にも重ねています」と伝えれば、実物の表面を見たくなります。
- 空間
- 「今回の作品は会場全体で一つの空間として構成しています」と伝えれば、作品単体ではなく展示そのものを見たくなります。
- 作家
- 「土日は在廊します」と伝えれば、作家本人と話したくなります。
- 限定作品
- 会場限定で小作品を展示すれば、それ自体が会場に行く理由になります。
このように、オンラインでは「情報」を提供し、オフラインでは「体験」を提供します。
「予約」という中間地点を作る
SNSでの告知から、いきなり展示会来場とするよりも、来場予約という中間地点を設ける方が、顧客との接点を把握しやすくなります。
予約方法は、
- メール
- LINE
- DM
- イベントページのフォーム
などで構いません。
重要なのは、来場予定者を把握できることです。
「フォロワー10,000人」よりも、「個展に来る可能性がある100人」の方が、展示販売という目的には直接的だからです。
ただ「予約受付中」とするだけでは、動機づけができていないため、予約につながりにくいこともあります。
そこで、予約者には来場時の「特典」を用意します。
例えば、
- 予約来場者限定で配布するプリント
- ポストカード
- 展示スペース内のサンクスボードや展示パンフレットの「Special Thanks」欄への名前掲載
- 予約者限定ゾーンでのラフ画の鑑賞
などです。
なお、予約者限定サービスを提供するには、会場側との調整が必要な場合があります。
公共施設の場合は公共性が重視されるため、予約者限定で提供すること自体が難しい場合もあります。事前に会場へ問い合わせておく方がよいでしょう。
告知では「販売」より「期待」を作る
展示前に、「この作品を販売します」と繰り返し発信すると、単なる販売イベントになってしまいます。
それよりも、「今回の個展には、どんなテーマやコンセプトがあるのか?」を伝えます。
例えば、
「これまで都市の夜を描いてきたが、今回は『人がいない場所に残る気配』をテーマに制作した。」
というような感じで展示のテーマやコンセプトを伝えます。
すると展示会は、「作品を売る場所」ではなく、「アーティストの現在の探求を体験する場所」になります。
その結果、「この新しいシリーズを実物で見てみたい」という来場動機が生まれます。
展示会場での「体験」を設計する
オンラインからオフラインへ、単に送客するだけでは十分ではありません。
会場に来てもらった後、「何を体験してもらうか」まで設計します。
例えば、
- 入口
- 展示コンセプト
- シリーズ作品
- 代表作品
- 制作背景
- 作家のステートメント
- 購入可能作品
- 作家との会話
- 問い合わせ・購入
という流れです。
作品をただ並べるのではなく、「この展示を見ることで、アーティストの世界を理解できる」状態を目指します。
「オンライン→オフライン→オンライン」の循環を作る
ステップ5で重要なのは、一方向の送客で終わらせないことです。
理想は、
- オンライン
- SNSで知る → 作品を見る → 展示を知る
- オフライン
- 会場に行く → 実物を見る → 作家と会う・話す → 作品を購入する
- 再びオンライン
- 展示写真を見る → 新作を見る → 作家をフォローし続ける → 次回展示を知る
という循環を生み出すことです。
つまり、「オンライン → オフライン → オンライン → オフライン → …」というループを作り出すことで、既存顧客を増やし続けていく仕組みの構築を目指します。
展示会から新規顧客を獲得する
展示会には既存ファンだけを集めるのではなく、新しい人が入ってくる仕組みも必要です。
例えば、
- 来場者によるSNS投稿
- 友人への紹介
- メディア掲載
- ギャラリーからの紹介
- 他アーティストとの共同企画
- 建築・デザイン・ファッションなど異分野との連携
などがあります。
一人の来場者が、
- 展示を見る
- SNSに投稿
- 友人が知る
- SNSを見る
- 次回展示に来る
という二次的な認知を生み出します。
そのため、展示会は販売イベントであると同時に、次の認知を生むマーケティング装置として捉えます。
ステップ5のチェックポイント
ステップ5では、SNSのフォロワー数だけを見るのではなく、オンラインからオフライン、そして購入までの流れを確認します。
- オンライン
-
- 展示告知のリーチ
- 展示ページへのアクセス
- 展示ページの滞在時間
- 来場予約ページへのクリック
- DM問い合わせ
- メール/LINE登録
- オフライン
-
- 来場予約数
- 実来場者数
- 新規来場者数
- 既存顧客の来場数
- 作家と会話した人数
- 作品問い合わせ数
- 購入数
- 購入率
- 展示後
-
- SNSフォロー
- メール/LINE登録
- 再訪
- リピート購入
- 次回展示への来場
- 紹介
特に重要なのは、「SNS上の反応 → 来場 → 購入」の転換率です。
まとめ:オンラインで生まれた興味を「実物体験」へ変える
ステップ5は、「SNSで展示会を宣伝するフェーズ」ではありません。
本質は、オンラインで生まれた興味を、実物体験へ変換するフェーズです。
アートでは、この実物体験が「好き」から「この作品を所有したい」へ進む重要なきっかけになります。
そのため、
- オンライン
- → 認知・世界観・期待
- オフライン
- → 実物・空間・作家との接触
- 購入
- → その体験の結果
という役割分担を明確にします。
オンラインが販売の代替になるのではありません。
オフラインで作品を体験するための入口として、オンラインを活用するという考え方です。
最終的には、
- SNSで「知る」
- Webで「理解する」
- オンラインで「期待する」
- 展示で「体験する」
- 作品を「所有する」
という顧客体験を一つにつなげます。
これが、アーティストのオンラインマーケティングを、実際の個展・ギャラリー・アートフェアでの販売につなげる基本構造になります。