画家・アーティストのマーケティング戦略|ステップ 1 : オンラインで認知を獲得する
画家・アーティストのマーケティングで最初に取り組むべきことは、作品を売ることではなく、まず「この人は何者なのか」を知ってもらうことです。
オンライン上でできるだけ多くの人と接点を作り、「このアーティストを見たことがある」「この人の作品はなんとなく気になる」という状態を作ります。
ただし、ここで目標にしたいのは、単純なフォロワー数の増加ではありません。
最終的に増やしたいのは、作品に興味を持つ人、作品を所有したいと思う人、そして将来的にコレクターになる人です。
そのため、最初のフェーズでは、
- 認知
- 興味
- 記憶
という3段階を意識してSNSやWebサイトを運用します。
まず「作品」ではなく「アーティストの存在」を知ってもらう
一般的な商品マーケティングでは、商品の機能やメリットを伝えることが重要です。
しかし、アートには「何に使えるのか」という機能的な価値だけでは測れない魅力があります。
- 誰が作っているのか。
- なぜ作っているのか。
- どのような世界観を持っているのか。
- どのような人生や経験から作品が生まれているのか。
こうした作品の背景やアーティスト自身の存在が、作品の価値につながります。
そのため、認知段階では完成作品の画像だけを大量に投稿するよりも、「このアーティストはどんな人なのか」が伝わる情報を蓄積していくことが重要です。
たとえば、次のようなコンテンツがあります。
- 制作風景
- アトリエの様子
- 制作中の動画
- スケッチ
- 制作前のアイデア
- 使用している素材
- 制作途中の作品
- 完成作品
- 制作に失敗した作品
- 日常の中で作品のアイデアが生まれる瞬間
- アーティスト自身の言葉
ここで目指したいのは、「この絵が好き」という反応だけではありません。
「この人の作品、なんか気になる」
と思ってもらうことです。
SNSは「作品を見る場所」ではなく「出会う場所」
SNSの大きな役割は、まだアートに関心を持っていない人とも接点を作れることです。
InstagramやTikTokを見ている人が、必ずしも「新しいアーティストを探そう」と思っているわけではありません。
たまたま、
「この制作動画、面白い」
「この色の組み合わせ、好きだな」
「この人のアトリエ、かっこいい」
「どうやってこんな絵を描いているんだろう?」
と感じたことがきっかけで、投稿を見ることがあります。
つまりSNSは、最初から作品を売る場所というより、「偶然の出会いを作る場所」として考えた方が効果的です。
そのため、投稿には「アートに詳しい人」だけでなく、「アートには詳しくないけれど、なんとなく面白い」と感じる人にも届く入口を用意します。
「アートを見る」という目的を持っていない人にも、「なんだこれは?」と思ってもらえれば、そこからアーティストとの接点が生まれます。
最初に必要なのは「一瞬で認識できる特徴」
オンライン上には、非常に多くのアーティストが存在します。
その中で覚えてもらうためには、
「この人といえば○○」
という特徴を作ることが重要です。
もちろん、必ずしも奇抜な作品を作る必要はありません。
たとえば、
- 特徴的な色彩
- 特定のモチーフ
- 独特な人物表現
- 特徴的な構図
- 特定の素材
- 独自の制作方法
- 独特なアトリエ
- 独自の制作哲学
- 特徴的な映像表現
なども、アーティストを識別する要素になります。
大切なのは、すべての投稿を完全に同じにすることではありません。
投稿を何回か見ているうちに、「あ、この人の作品だ」と分かる状態を作ることです。
SNSでは、一度見ただけで覚えてもらえないことも珍しくありません。
だからこそ、異なるコンテンツを発信しながらも、作品や言葉、色、モチーフ、世界観などに一定の一貫性を持たせることが重要になります。
コンテンツは5つの柱で考える
投稿内容を毎回ゼロから考えていると、SNSの運用そのものが負担になってしまいます。
そこで、あらかじめコンテンツをいくつかのカテゴリーに分けておくと運用しやすくなります。
基本となる柱は、以下の5つです。
- 作品
- 制作過程
- 物語
- 人間性
- 思想・世界観
1. 作品
完成した作品を見せます。
ただ作品画像を掲載するだけではなく、
- 作品タイトル
- サイズ
- 素材
- 制作年
- 制作した理由
- モチーフの意味
- 制作時に考えていたこと
などを組み合わせると、作品への理解が深まります。
もちろん、作品そのものが最も重要なコンテンツです。代表作や新作は定期的に見せていきます。
2. 制作過程
アーティストのSNSでは、制作過程が非常に重要なコンテンツになります。
たとえば、「真っ白なキャンバスから作品が完成するまで」を短い動画にします。
- 下描きをする。
- 色を置く
- 削る
- 塗り直す
- 失敗する
- 修正する
- そして完成
こうしたプロセスを見せることで、完成作品だけでは伝わりにくい、「人間の手によって作られている」という感覚を伝えられます。
特に動画は、「何ができるんだろう?」という好奇心を生みやすいコンテンツです。
3. 物語
作品の背景にあるストーリーを伝えます。
- なぜこの作品を作ったのか
- このモチーフはどこから来たのか
- この作品を作っていたとき、何を考えていたのか
といった内容です。
ここで、難しい美術評論のような文章を書く必要はありません。
むしろ重要なのは、アーティスト本人の言葉で語ることです。
きれいにまとめられた説明文よりも、本人だからこそ話せる経験や感情の方が、見る人の記憶に残ることがあります。
4. 人間性
アーティスト自身の人柄も伝えます。
たとえば、
- アトリエの日常
- 制作前のルーティン
- 好きな本や音楽
- 展覧会を見に行った記録
- 作品制作で悩んでいること
- 失敗談
- 制作へのこだわり
などです。
一見すると作品とは直接関係がないように思える内容もあります。
しかし、人は作品だけでなく、「誰が作っているのか」にも興味を持ちます。
「この人、面白いな」「この考え方、好きだな」という感情が、後々作品への興味につながることもあります。
5. 思想・世界観
最終的にアーティストのブランドを形成するのが、この部分です。
- 自分はなぜ絵を描いているのか
- 自分にとって美しさとは何か
- なぜこのテーマを繰り返し描くのか
- 社会や人間について何を表現したいのか
こうした考えを少しずつ発信します。
ただし、最初から難しいステートメントを長文で投稿する必要はありません。
日々の制作や作品について語る中で、少しずつその人の思想が見えてくる方が自然です。
完成作品だけを投稿しない
アーティストのマーケティングにおいて陥りやすいのが、「完成した作品の写真を投稿し続ける」ことです。
もちろん完成作品は重要です。
しかし、
- 新作です
- タイトル:○○
- 油彩、F50
だけでは、すでに作品に興味を持っている人には情報になりますが、初めて見る人にとっては、興味を持つきっかけが少ない場合があります。
そこで、
作品+制作過程+ストーリー+本人
という組み合わせを作ります。
たとえば、1つの作品からでも、
- アイデアのスケッチ
- 制作開始
- 制作途中
- 制作中に悩んだこと
- 完成
- 完成作品の細部
- 制作した理由
- アトリエに置いた状態
- 展示した状態
と、複数のコンテンツを作れます。
つまり、「1作品=1投稿」ではなく、「1作品=1つのコンテンツ群」として考えるわけです。
これなら、作品数が限られていても発信できる情報量を増やせます。
「バズ」を目的にしすぎない
SNSで大きく拡散されること自体は重要です。
ただし、バズそのものを最終目標にするのはおすすめできません。
たとえば、制作動画が100万回再生されたとしても、「動画は面白かったけれど、誰が作ったのか覚えていない」という状態では、アーティストのブランド形成につながりにくいからです。
理想的なのは、
- 投稿を見る
- アーティストを知る
- 他の作品を見る
- プロフィールを見る
- Webサイトを見る
- フォローする
という流れです。
そのため、見るべき指標も再生数だけではありません。
- プロフィール(閲覧数/閲覧率)
- フォロー
- Webサイトへのアクセス
- 作品ページの閲覧
- 保存
- シェア
- DM
- 展示への参加
- メール・LINEへの登録
なども確認します。
「何回見られたか」だけではなく、「見た人が次の行動に進んだか」を見ることが大切です。
SNSプロフィールは「自己紹介」ではなく「入口」
投稿を見て興味を持った人が、次に確認するのがプロフィールです。
ここで「何をしている人なのか」が分からなければ、そのまま離れてしまいます。
プロフィールには最低限、
- アーティスト名
- 肩書き
- 作品テーマ
- 活動拠点
- 展示歴などの簡単な実績
- Webサイト
- 展示・販売情報
などを整理しておきます。
特に重要なのは、「このアカウントをフォローすると何が見られるのか」が伝わることです。
たとえば、「抽象画を制作しています」だけではなく、
「日常の記憶と都市の風景をテーマに、抽象絵画を制作しています。制作過程と新作を発信しています。」
とすれば、アカウントの役割がより伝わりやすくなります。
SNSからWebサイトへ移動できるようにする
SNSだけで情報発信を完結させないことも重要です。
SNSはアルゴリズムによって投稿が表示され、時間が経つと流れていきます。
一方、Webサイトはアーティスト自身が管理できる「資産」です。
そのため、「SNS → Webサイト」という導線を作っておきます。
Webサイトには、
- プロフィール
- アーティストステートメント
- 作品一覧
- 展示歴
- 新着情報
- お問い合わせ
などを整理します。
SNSで「なんとなく気になる」と思った人が、Webサイトを訪れることで、
「この人は本格的に活動しているアーティストなんだ」
と理解できる場所を用意しておくのです。
この段階では「売り込み」は控えめに
認知段階では、毎回、
- 「作品販売中です」
- 「購入はこちら」
- 「残り1点です」
と販売を促す必要はありません。
むしろ、まだアーティストを知らない人に販売メッセージばかりを届けると、単なる広告として受け取られてしまう可能性があります。
この段階では、「買ってください」よりも「知ってください」を優先します。
たとえば、
- 「今日はこの作品を制作しています」
- 「この色を使う理由」
- 「この作品はここから始まりました」
- 「最近アトリエで考えていること」
といった発信を積み重ねます。
その結果、
「この人の作品、もっと見たい」
という気持ちが生まれます。
これが、次のフェーズである「興味・共感・信頼」の形成につながっていきます。
ゴールは「名前と作品を思い出してもらう」こと
この段階のゴールは、「フォロワー1万人」のような数字だけではありません。
本当に重要なのは、アーティスト名を見たときに、作品や世界観を思い出してもらえる状態です。
たとえば、「○○というアーティストを知っていますか?」と聞かれたときに、「ああ、あの○○を描いている人ね」と返ってくる。
これが「認知」です。
さらに、
- 「新作が出たら見たい」
- 「制作過程を見るのが好き」
- 「この人の展示があったら行ってみたい」
となれば、単なる認知から「興味」へ移行しています。
つまり、この段階では、「知らない人」から「名前と作品を知っている人」に変える。
そして、
名前と作品を知っている人を「また見たい人」に変える
ここまでをオンライン上で作ることが重要です。
認知獲得の効果は「次の行動」まで見て検証
オンラインでの認知獲得を評価するときは、単純なフォロワー数だけで判断しないようにします。
大きく分けると、次の3段階で確認できます。
- 認知
- 主な指標:リーチ、インプレッション、動画再生数、新規プロフィール閲覧者
- 興味
- 主な指標:プロフィール閲覧率、フォロー率、保存数、シェア数、Webサイトクリック
- 関係構築の入口
- 主な指標:Webサイト訪問、メール・LINE登録、DM、展示予約、作品ページ閲覧
このように見ることで、「どれだけ多くの人に見られたか」だけではなく、「見た人が次の行動に進んでいるか」を把握できます。
たとえば、再生数がそれほど多くなくても、プロフィール閲覧率やWebサイトへのアクセスが高ければ、アーティストに対する関心が生まれている可能性があります。
反対に、再生数だけが大きく、プロフィールにも作品ページにもほとんどアクセスされていないのであれば、アーティスト自身の認知にはつながっていない可能性があります。
まとめ|作品を売る前に、アーティストを記憶してもらう
画家・アーティストのオンラインでの認知獲得を一言で表すなら、作品を売る前に、アーティストを記憶してもらうステップです。
- SNSで作品を見せる
- 制作過程を見せる。
- アーティスト自身の言葉を伝える。
- 人柄を伝える。
- 思想や世界観を少しずつ伝える。
- そしてWebサイトで活動の全体像を見せる。
これらを積み重ねることで、
- 知らないアーティスト
- 見たことがあるアーティスト
- 名前を知っているアーティスト
- 作品をもっと見たいアーティスト
へと変えていきます。
この土台ができて初めて、次のステップである「興味・共感・信頼」の形成につなげられます。
したがって、ステップ1の仕事は「販売」ではありません。
「この人は何者なのか?」という問いに、オンライン上で答え続けることです。
その積み重ねが、将来的な作品購入、個展への来場、そしてコレクターとの関係づくりにつながる最初の土台になります。