2024年9月下旬から、WordPressを運営しているAutomattic(オートマティック)の創業者Matt Mullenweg(マット・マレンウェッグ)氏と、WordPressに特化したホスティングサービスを提供するWP Engineとの間で騒動が起きている。
この騒動を受けて「WordPressが使えなくなるのでは?」「ACF(WP Engineは運営するWPプラグイン)が使えなくなるのでは?」などWordPressユーザーの間で不安の声が広がっている。
WordPress騒動の時系列
今回の騒動の時系列は、以下のような流れらしい。
- 2024年9月21日にマット氏がWP Engineのやり方を批判する内容のポスト(WP Engine is not WordPress)を公開。
- 2024年9月23日、WP Engineはポストの公開を中止するよう差し止め通知書を送付。
- 2024年9月25日、WordPress Foundationは商標ポリシーの内容を変更し、WP Engineを名指しして批判。マット氏はWP EngineによるWordPress.orgリソースへのアクセスを禁止(WP Engine is banned from WordPress.org)。これによりWP Engineの主要サービスの一つであるAdvanced Custom Fields(ACF)がWordPress公式ディレクトリから削除。WordPress管理画面からACFをアップデートできない事態に。
- 2024年9月27日、多くのユーザーから批判を受けたのか、WordPress.orgが10月1日までの一時措置としてWP Engineのアクセス禁止を解除(WP Engine Reprieve)。
- 2024年10月1日、WP EngineがXにて自社提供のプラグインやテーマについて、独自の解決策を展開したとポスト。
- 2024年10月2日、WP EngineがAutomatticとマット氏を恐喝と権力乱用で告発。
- 2024年10月9日、マット氏はWordPress.orgのコントリビューターログイン画面にWP Engineの関係者でないことを確認するチェックボックスを設置(踏み絵)。これに多くのコントリビューターが反発。
- 2024年10月13日、WordPress.orgはACFをフォークして新しいプラグイン「Secure Custom Fields(SCF)」を作成したと発表。ACF乗っ取り完了(Secure Custom Fields)。
マット氏の主張
- WP EngineがWordPressで得ている収益はAutomatticと同規模であるにもかかわらず、その貢献度はAutomatticと比べて1/100程度である。
- WordPressはCMSであり、コンテンツは神聖なものである。そのため、すべてのコンテンツのリビジョン(更新履歴)は保存されるべき。しかしWP Engineは自社の利益のため、ユーザーのリビジョン機能を無効にしている。これによってWP Engineユーザー150万以上のWordPressでリビジョンが保存されないようになっている。
- WP Engineが提供しているものはWordPressとは言えない。彼らが提供しているものはWordPressに似た安っぽい模造品であり、しかも本物より高額で提供している。これがWP EngineがWordPressにとっての「がん」である理由の一つで、放置しておくと「がん」と同じく転移する(追従する他社も現れる)ことを危惧している。
- WP Engineとの訴訟問題が解決するまで、WP EngineがWordPress.orgのリソースにアクセスすることを禁止する。
- WordPressはさまざまな機能を無料で提供しているが、WordPress.orgリソースにアクセスできないWP Engineは独自にそれらを用意しなければならない。またWordPressサイトが以前ほどハッキングされなくなったのは、ホスティング会社と協力して継続的にセキュリティを高める努力をしているからである。WP Engineに利益を貪られながら、これらのサービスを無料で彼らに提供する義理はない。
- 「WP」はWordPressの商標によってカバーされていないが、ユーザーを混乱させるような使い方をするべきではない。多くの人がWP Engineを「WordPress Engine」と勘違いし、WordPressと正式に提携していると誤解しているが、実際には何ら関係はない。彼らはWordPressによって数十億ドルの収益を上げているにもかかわらず、一度もWordPress Foundationに寄付したこともない。
- WP Engineが今後もWordPressを利用した事業を継続したいなら、商標ライセンスを取得しなくてはいけない。
僕はわりとマット氏を支持
ACFの公式ディレクトリからの削除&乗っ取りという過激な対応をしたことでネガティブな反応が大きくなってしまったわけだが、個人的にはマット氏の主張は筋が通っているというか、心情が理解できる部分が多いと感じた。
自分たちが力を注いで開発してきたサービスにタダ乗りして、自分たち以上の利益を手にする奴がいれば面白くはないのは自然な感情だろうし、傍から見ていてもWP EngineのやっていることにWordPressへのリスペクトは感じられないように思う。
WordPressはGPLライセンスで公開されていて、商用利用や改変、再配布などが認められているものではある。
それを踏まえればWP Engineのやり方は誠意はなくともライセンスで認められている範囲内とも見れるし、だからこそマット氏は商標ライセンスを更新して、WP Engineの所業を「アウト」にしたかったんだと思う。
また、そもそもなぜWordPressがGPLライセンスで公開されているのかという話だが、もちろんそうすることでWordPressの発展が加速することを狙っている面もあると思う。
でもそれと同時に、WordPressというプラットフォームがあることで、「エンジニアやデザイナーの活躍の場が広がるように」というマット氏をはじめWordPress創業者たちの想いもあってのことだ。
だからWordPressを利用して仕事をしている世界中のデザイナーやエンジニアは、この素晴らしいソフトウェアが無償で公開されていることに感謝するべきだし、リスペクトをもって節度のある利用を心がけるべきだと思う。
だからもしWP Engineの振る舞いにWordPressへのリスペクトが感じられていたら、仮にWP Engineの収益がAutomatticのそれを上回っていたとしても、今回のような騒動には発展しなかったかもしれない。
X上ではどちらかと言うとマット氏への批判の声の方が大きいように感じるし、中にはマット氏の人格を否定するようなポストまであるが、調べるほどマット氏の抱えていたフラストレーションや今回の行動に至った経緯など(すべてに賛同するわけではないが)理解はできた。
ACFは今後どうなるのか?
マット氏がX上で燃え気味なのは、WP Engineと揉めていることよりも、ACFを公式ディレクトリから削除したことと、Automattic社員の多数退職、コントリビューターへの踏み絵が大きいように思う。
実際にこれから、ある程度の期間はACF周りでゴタゴタすることもあるだろうし、社員やコントリビューターが離れたことでWordPressのアップデートが鈍化する可能性もある。
でもインターネット上で40%以上のシェアを誇るWordPressが近い未来に廃れていく姿は想像できないし、ACFに関しても個人的にはあまり心配していない。
ちなみに少し話は逸れるが、有料版のACF PROであれば、今回の公式ディレクトリ削除の影響はまったく受けない。
またACFは有料版でしか使えない機能こそ仕事でWeb制作する場合には便利なものが多いので、もし無料版で今後のアップデートに不安がある人はACF PROの利用を検討してみるのもいいかもしれない。
現時点ではACFからSCFに切り替わった直後のため、いろいろと軽微なバグはどうしても出ると思う。
でもこれについても、アップデートを繰り返すうちに改善されていくと予想している。
ちなみにマット氏は「今回の件とは無関係だけど」としつつ、『Secure Custom Fields』というポストの最後で以下のような発言をしている。
There is separate, but not directly related news that Jason Bahl has left WP Engine to work for Automattic and will be making WPGraphQL a canonical community plugin. We expect others will follow as well.
以前WP Engineで働いていたJason Bahl(ジェイソン・バール)氏がAutomatticに移籍し、WPGraphQL を公式コミュニティプラグインにすることになった。他にも同じような動きがあるかもしれない。
明言はしていないが、今後SCFにテコ入れしていくことを匂わせている、と見えなくもない。希望的観測だが。
そうなれば案外、ACFよりも充実した機能を有したプラグインになる可能性もなきにしもあらずである。